愛と欲望の設備選び(キッチン編・その1)
【注意!】本記事にはキッチンに興味のある人ほどどうでもいい情報ばかり載っています。時間のムダにならないようご注意ください。
全部コミコミでセットになってるのが売りの程々の家ですが(そうなのか?)、なんだかんだでイロイロ選ばなくてはいけなくなった私たち一家3人。中でも大物はキッチンとお風呂。というわけで、まずはキッチンを見に行きます。
まず、この時点において、私のキッチンに対する要望はこんな感じでございます。
① オープンキッチン
→ 目の前が抜けててほしい。
② 一枚板で対面がカウンターになってる
→ 手元などはなから隠す気もないため一枚板で、反対側で軽食を取れるようにしたい。
③ ワークトップはステンレスがいい
→ 大理石系は本物じゃないと気を使うし、なによりもステンレスが好き。
④ ワークトップの高さは90cmがいい
→ 私も妻もどちらかというと背が高いほう。
⑤ 2740mmくらいの幅がほしい
→ 間取りの関係で後ろ側にカウンターを設けられないので、幅を広くしたい。
⑥ IHヒーターがいい
→ ガスは掃除が面倒だし、そもそもオール電化だからまあこうなるよね。
⑦ フロントオープンの食洗機もほしい
→ 引き出しタイプは知恵の輪になっちゃって使いにくいという話をブログで読んだ。
この中で①については間取りの段階でクリア。でもって②に関してもほぼ問題はありません。前住んでたマンションが、奥行き1050mmのカウンターでエライこと使いやすかったので、これをマネしようという魂胆です。
次に③と④ですが、これもちょっと調べてみたら、だいたいどこのメーカーでも選べそうなので問題はなさそう。で、ひとつ飛ばして⑥と⑦。コレは設備の問題なので、ほしい機種を決めてそれを突っ込めばいい話なのですが(ホントか?)、問題は③でございます。
ここまで考えた間取りだとワークスペースを後ろ側に取れないので、できる限り幅を広くしたいと思っていたのですが、間取り図のスペースに幅2740mm、奥行き1050mmのキッチンを置くと、このような感じになります。
図のグレーの部分が土間でございまして、その下側の框とは5cmほどの段差がございます。で、框ギリギリに柱が1本どーんと立っておりまして、その柱とのクリアランスが30cmちょっとしかありません。つまり、楕円形の人間様が、いったん框に上らないと反対側に行けないのです。コレはめんどくさい。
コレを解決するにはキッチンを短くするしかないのですが、ほとんどのキッチンは長さが15cm刻み。というわけで、人間様がスムーズに通れる(であろう)60cmを確保するには、キッチン幅は2440mmが限界ということになります。
私「というわけで、我が家に残された道はトーヨーキッチンしかないのだ」
妻「いっちょんわからん」
もちろん妻じゃなくてもさっぱりわからないと思うので、ここで解説。こんなふうにキッチンの幅は取れないけどワークスペースは確保したいという場合、前回の記事でちょろっと触れた3Dシンクが威力を発揮するのであります。
この3Dシンクなるもの、上の画像を見てもイマイチわからないと思うのですが、シンクの上に作業台やらまな板やら水切り台やらをレイヤー状に置くことができて、つまりシンクの中までワークスペースとして使えるというシロモノ。つまり、でっかいシンクと広い作業スペースを両立できるのです。
というわけで、どっかのモデルルームに置いてあったコレを初めて見た私は、初めて黒船を見た江戸の人みたいに心底ビックリし、いやあキッチンにコレが欲しいなあと心底思ったわけであります。
さすがにお値段がお値段のため、無闇に導入するのははばかられておりましたが、これで使いやすさとサイズの条件を両立するためという大義名分が生まれたため、積極的に導入を働きかけることができます。ビバ小さいお家。
私「いやあ、残念だ。幅さえ取れればこんなの導入しなくて済んだのに(棒読み)」
妻「……」
私「家をケチったばかりにキッチンに投資しなくちゃならなくなるとは(棒読み)」
妻「……」
私「ちょっと聞いたらずいぶん高いみたいだけど、致し方無しですなあ(棒読み)」
妻「待ちんしゃい」
私「え?」
妻「別にトーヨーキッチンじゃなくても似たようなのあるやっか」
私「え?」
妻「たとえばステンレスっぽいメーカーでクリナップのコレとか」
私「うっ……」
妻「こっちのほうが安かばい」
私「ダメ」
妻「なして?」
私「に、ニセモノだから」
妻「まあアイデアは似とるけど」
私「あと」
妻「?」
私「パーツの剛性感が段違い」
妻「??」
私「あと作り方が段違い」
妻「???」
実際にショールームに行ってみて、トーヨーキッチンはもちろん、リクシルやらクリナップやらウッドワンやらオーダーキッチンメーカーやらイロイロ見て回り、この手のシンクをあーでもないこーでもないイジり倒してみたところ、群を抜いて頑丈だったのがトーヨーキッチンの3Dシンクでございました。
他のメーカーは恐らく片付けのラクさとかお掃除のしやすさとかのバランスを考えて、作業台やまな板が薄く軽く作られてます。んが、それはイコール使った時の不安定さ、というか「力を入れてかぼちゃを切るとズレて気持ちよくない」とか「パスタポットに水満タンに入れて置くとグニャッとして気持ちよくない」とかいう事態に直結してしまいます。
んが、トーヨーキッチンの3Dシンクは、軽さや掃除のしやすさなんかを一切無視した(少なくとも重さとサイズの面で)のと引き換えに、昔のベンツのドアとか、昔のフェラーリのシフトゲートとか、つまりそれに近い剛性感を手に入れていたのであります。
私「まあ、私にとって料理ってあくまで趣味なわけですよ」
妻「はあ」
私「でも、趣味だからこそ、性能以外の剛性感とかにこだわりたいワケですよ」
妻「はあ」
私「あとね、ココもトーヨーキッチンだけだから」
妻「?」
妻「どこね?」
私「シンクの断面を見ると、入口より底のほうが広くなってる」
妻「あ、ホント」
私「コレってすごいよねえ」
妻「?」
フツーこの手のシンクとか、あとは鍋や釜やクルマの鉄板なんかもそうですが、絞り加工という方法で金属の板をプレスして作ります。たとえば「凹」の上に板を置いて、上から「凸」のカタチの型を押し付ければ、コップのようなカタチの製品が出来上がるわけでございます。
で、もう聡明な読者の方ならお気づきのとおり、これだと入口より底のほうが狭いカタチであればいくらでも作れるのですが、3Dシンクみたいに底のほうが広がったカタチって、フツー作れないのですよね。だって、上から押し付けるパンチが抜けなくなっちゃうし。
実際はパンチを割型といって分割できるようにしたり、パンチのかわりに水圧を使ってプレスしたりしてこのような形状を作ることは可能なのですが、どちらもフツーのプレスに比べるととんでもないコストが掛かるので、フツー目にする工業製品でこのような形状のものはほぼゼロであります。たぶん。
おそらくこういう形状にすることで、水ハネを減らしたり、シンクの実質容量を増やしたり、下段にパネルを設置する際の使いやすさや剛性感が向上するというメリットがあるのでしょうが、どう考えても効果とコスト(とそれによる販売価格への跳ね返り)が見合うとも思えず、でも、そんなトコにコストを掛けるという、それこそ昔のベンツやらフェラーリみたいな過剰さに、どうしても魅力を感じてしまうのであります。
私「でね、コレに使ってるSUS304だと張り出し成形ならラクにできるんだけど」
妻「えーと……」
私「でも3Dシンクは張り出し成形で作れる形状じゃたぶんないし」
妻「あのー……」
私「でも深絞りをやりすぎると表面の被膜が破壊されて錆びやすくなったりするし」
妻「も、もしもし?」
私「そこらへんの性能を保ったままこの形状に成形するノウハウって一体」
妻「き、聞いてくれとる?」
私「え?」
妻「だ、だいじょうぶ?」
私「なにが?」
妻「いろいろな意味で」
私「まあ、これで3Dシンクの魅力をわかってもらえたかな?」
妻「トーヨーキッチンにしたいという君の希望はイヤというほどわかった」
私「ありがとうございます」
妻「そこまで言うならいいけど」
私「!」
妻「まあでも、トーヨーキッチン始まって以来のキモい客なのは間違いなかね」
私「キー!」
使いやすさや掃除のしやすさといった、本来キッチンに必要とされる条件とはかけ離れた理由を滔々と開陳することでなし崩し的に採用にこぎつけた3Dシンク、っていうかトーヨーキッチン。ということで、次回は「3Dシンク、その特許の秘密と類似品に関する知財高裁の判断は?」をお送りいたします。
妻「やめんしゃい(迫真)」
私「ウソです。ちゃんと機器類を選びます」
次回「愛と欲望の設備選び(キッチン編・その2)」につづく